蟻地獄とリスタート
彼が再び立ち上がるために必要なものは、
幼い頃の息子と過ごした公園で見つけた、戦士の精神だった。
大場富士塚公園。その名を聞くだけで、かつてはただの小さな遊び場だったはずの場所に、今は異様な感覚を覚えるようになった。ここは、子どもたちが蟻地獄のような滑り台で何度も転がり落ちる場所。笑い声が響くたび、彼らの無邪気な挑戦が続いていた。大人になれば「苦労は買ってでもしろ」とは、まるで遠い昔のことばのように感じるものだが、この公園ではその教えが今でも生きていた。
公園の片隅にあるベンチに、リストラされたばかりのサラリーマン、佐藤英二は腰を下ろしていた。50歳を目前に控えた彼は、勤め先の会社から突然の解雇を言い渡され、まるで自分が蟻地獄に引き込まれたかのように感じていた。
佐藤はかつて、この公園で幼い息子と一緒に遊んだことを思い出していた。当時、息子は何度も滑り台から滑り落ち、そのたびに泣き出すのではないかと心配した。しかし、息子は泣くどころか、すぐに笑顔を浮かべて、再び挑戦する姿を見せた。その姿を見て、佐藤は「もがくことをやめない子どもたちは未来を切り拓く戦士だ」と感じたものだった。
その記憶が今、佐藤の胸に痛みを伴って甦ってきた。自分自身がその「戦士」であった時代はとうに過ぎ去り、今ではただ一つの道が閉ざされた状態だった。これからどうするのか、その答えはまだ見つかっていない。だが、この場所で自分が何度も蟻地獄に引き込まれたとしても、再び立ち上がる息子の姿を見た記憶が、彼に少しの勇気を与えていた。
「英二、お前もまた戦士として、再び歩き出さなければならない」
そう自分に言い聞かせながら、佐藤はベンチから立ち上がった。これから先の道がどうなるのかは、まだ誰にも分からない。だが、もがき続けること、それをやめない限り、未来を切り拓く力は残されているはずだ。
大場富士塚公園の子どもたちは、相変わらず蟻地獄に挑み続けていた。彼らの笑い声が、佐藤の耳に心地よく響いた。その音は、まるで彼自身がこれから再び立ち上がるための合図のように聞こえた。
その日、佐藤は新たな一歩を踏み出す決意を胸に、この小さな戦場を後にした。苦労は買ってでもしろ、という教えを胸に刻みながら。